書評『沖縄の自然は大丈夫?』
中西希・中本敦・広瀬裕一著『沖縄の自然は大丈夫?─生物の多様性と保全』
生き物を考えるヒントに
最近、生物多様性という言葉をよく耳にする。過去には流行語大賞候補に選ばれたこともある言葉だが、果たしてどれくらいの人がその意味を理解しているだろう? 直感的にイメージしやすい言葉だけに、理解が不十分なまま社会に拡散しているようにも思える。
本書は、生物多様性について学ぶための第一歩として最適な1冊である。沖縄の豊かな自然を舞台に第一線で活躍する研究者が、生物多様性の価値と保全の必要性を平易な言葉で丁寧に解説している。また、生物多様性を保全するために何をどう守れば良いか、外来種問題とどう向き合えば良いかなど、環境保全に取り組む上での実践的課題について、具体的知見と示唆に富んだアイデアが提示されている。沖縄の生物に関する情報も多く盛り込まれており、生物学に造詣が深い読者も最後まで興味を持って読み進められるはずだ。
専門的な内容ではあるが、本書は難解な学術書ではない。イリオモテヤマネコやオリイオオコウモリなど、おなじみの生物に関する具体例を交えた解説やQ&A方式の記述が多く、一般の読者が読みやすいように工夫されている。
本書は著者らが担当する教員免許更新講習の内容をまとめたものであり、教育現場を意識した記述が目に付くのも特徴だ。例えば、「外来種の駆除と生命の大切さ」について子供に聞かれたら、先生はどのように答えれば良いだろうか? 本書には、こうした疑問に答えるためのヒントが詰まっている。生物多様性を学ぶための入門書として、啓発書として、沖縄の自然や生物に興味を持つ多くの読者にぜひ読んでほしい本である。
ダーウィンの「進化論」を挙げるまでもなく、生物学の理論は時に我々の人生に重要な示唆を与えてくれる。教育、経営、文化、何でも良い。著者らの意図とは異なるが、「生物」を身近な言葉に置き換え、人間社会の暗喩として本書を読んでみるのも面白い。多様性について思索することは、我々の人生に資するところも大きいのである。(傳田哲郎・琉球大教授)
(6月27日掲載)