書評『沖縄からの眼差し・沖縄への眼差し』
石原昌英編『沖縄からの眼差し・沖縄への眼差し』
学ぶ志は時代や国境越え
「私は、今年初めて中国に来ました。官話(中国語)を学ぼうと決心しています。どうかご教授ください」。この一文は、琉球王国時代に琉球から中国へ渡った留学生が記したものであるという。
本書は、海を渡って言葉を学ぼうとする志に、時代や国境を越える普遍性があることを示唆している。琉球大学の人文社会系の教員11人が、沖縄・日本、東アジア、東南アジア、ヨーロッパに及ぶ専門分野について、越境、言語と沖縄をめぐるエッセーを記している。執筆者の多くは留学体験や在日外国人であることなどの当事者性を有しており、本書の記述をリアルにしている。
章立ては「琉球王国存続の舞台裏」「沖縄とタイ・ラオス」「一九世紀におけるフランスと琉球の関係」「ドイツのもので役に立たないものは何一つない」「朝鮮文学への招待」「日本人の知らない日本語教師」「近づいて見えたもの、離れて気がついたこと」「海の彼方(かなた)に温存されるチムグクルの記憶」「『語り』からみた移民の言語とアイデンティティ」「奄美・琉球諸島とハワイ諸島における言語復興について」「故郷の言語と私たち」-と多岐にわたるが、それらは相互につながっている。
琉球王国時代の「御冠船」について読み、ハワイからやってくる現代の「御冠船歌舞団」を想起する人もいるだろう。それはまさに「海の彼方のチムグクル」である。沖縄とハワイの結び付きは、沖縄における琉球諸語の復興にも関わる。奪われた言語のポリティクスは、在日朝鮮人が日本語で書いたものは朝鮮文学なのかという問いに重なる。それは、母語を拒否する移民の子どもたちのアイデンティティーの問題につながっていく。
編者の石原昌英は、本書を「沖縄の視点で『外』(他者)を見ると同時に、外(他者)の視点で沖縄を見ることができる」としている。越境、言語、沖縄をめぐる複数の問いが響き合う小宇宙を味わえる1冊である。(野入直美・琉球大学法文学部准教授)
(7月4日掲載)
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