書評『「沖縄文学」への招待』
大城貞俊著 「沖縄文学」への招待
細部まで研究者の誠実さ
一読してまず驚くのは、盛り込まれた情報の豊かさと細部へのこだわりであろう。「招待」という言葉から分かりやすく書かれた入門編であることは理解できる。しかし、著者は大雑把(おおざっぱ)な括(くく)り方で「沖縄文学」を概観するのではなく、取り上げた作品から美しく力のある細部を引用しながら全体をまとめようとする。書き手としての著者の感性と力量がいかんなく生かされているところであり、本書を魅力的な「沖縄文学」への誘いにしている要因である。
二つ目の特徴は、客観的な事実を提示することへの著者の文学研究者としてのこだわりである。大城は、小説家、詩人として、現代沖縄を代表する書き手の1人であるが、その文学史の整理の端正さには敬服するしかない。「沖縄文学」の歴史を概観し、時代別の特徴を整理し、文学のジャンル全てにわたって代表的な書き手に言及する。巻末の年表を含めて最後までコンパクトに整理され、感嘆せざるを得ない出来栄えなのである。
三つ目の特徴は、「オモロ」から九州文学賞を受賞した佐藤モニカまで、あるいは「ウルトラマン」の脚本を書いていた金城哲夫から映画監督の中江裕司や岸本司まで、本書がカバーするジャンルの広がりや新進の表現者たちへのフェアな目配りである。あまり注目されることのない「沖縄ハンセン病文学」の優れた作品の解説には、大城の沖縄社会への鋭い問題提起も含まれている。まさに、「沖縄文学」全体をカバーする「招待」であり、巻末の「人名索引」と合わせて、著者の研究者としての誠実さが存分に発揮された「ブックレット」である。
大城は7章「おわりに」で「沖縄文学」のプロブレマティクス、つまり未確定の「沖縄文学というカテゴリーは成立するか」という問いに関して6ページを費やして答えようとする。これは近年の最も重要な問題域の一つであるが、著書は明確に「成立する」と答える。読み応えのある議論である。(山里勝己・名桜大学学長)
7月25日掲載
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