プロローグ 消えたワラビー(後編)
プロローグ 消えたワラビー(後編)
大事な会議をサボり、ワラビーはどこに消えたのか。経営企画室主任、小林剛の追跡が始まった―。
社内の情報が集まる場所といえば労働組合事務所。息抜きに来た社員がぽろりと本音をもらす空間である。小林はタイムスビル4階、沖縄タイムス労組に上原康作書記長を訪ねた。
「康作、ワラビー見かけなかったか?」
「かっぱえびせんを持って、エレベーターで1階へ向かってました」
一日に百人以上の来客をさわやかな笑顔で出迎える沖縄タイムスの看板デュオ、1階受付の安達優、佐藤亜衣香も何か見ていたかもしれない。小林は聞き込みを続けた。
すると、やはり2人はワラビーを目撃していたという。安達が記憶をたぐりよせる。
「確かワラビーは…チップスターを持って、地下へ行ける業務用エレベーターのほうへ歩いていきましたよ」
「チップスター?…かっぱえびせんという証言もあるけど」
「チップスターでした。コンパクトサイズの」
「私が見たのは複数の『うまい棒』を持ったワラビーです。…めんたい、そう、確かにめんたい味が含まれていましたね」
(…その情報は、特にいいや)。小林はのど元までせり上がったツッコミをどうにか飲み込んだ。
(とにかくいったん、メモを整理する必要があるな)。小林はノートとにらめっこを始めた。
かっぱえびせん…チップスター…うまい棒…ワラビーはいったいどのスナックを手にしていたのか…えびせん…チップスター…うまい棒……ていうかそれって結構どうでもいいしワラビーの居場所と関係なくない?
大事なことにようやく気づき、やるせない徒労感を抱えながら再び1階に戻った小林。タイムスで職場体験学習中だった上山中学校2年の3生徒から、耳寄りな情報を聞き出した。彼女たちによると、ワラビーは地下へ向かったという。
「みんなもワラビーに会いたいんじゃない?4人で、ワラビーを探しに行こう!」
「おー!」
―さて、タイムスビルの地下には、社員専用の駐輪場が……駐輪場……に!?
「ワラビー、なに会議サボって駐輪場にお菓子持ち込んで寝てるんだよ」
「ここはおちつくし、すずしいし、よくねむれるんです。みんなの前に出るのもはずかしいし」
「沖縄の子どもたちがワラビーを待っているんだよ!ちゃんとしろよ!」
「ワラビーはここでいいんです。ここにいればだれもワラビーのことをおこらないし…ウィキペディアの話とかもちださないし…」
「……ワラビー、ちゃんとしてよ」
「…そうだよ!」
あれれ…ワラビーは思った。どうしてこうなっちゃったんだろう。ワラビーは思った。どうしてこの子たちはこんなに悲しそうなんだろう。
ワラビーは思った。日曜子ども新聞「ワラビー」のキャッチフレーズ「子どもも大人も めくるワクワク」。いつのまにかわすれていたね。……ワラビーは、この子たちを、ワクワク、させなきゃ。
「…がんばる。ワラビー、がんばるよ。ワラビーは『ちゃんとしたワラビー』になるよ!」
小林が苦笑する。「ワラビー、よく言った。できればもう1回、ONE PIECE風に言ってくれ」
「『ちゃんとしたワラビー』に、ワラビーはなる!」
「ワラビー頑張れー!」上山中学校の3人も続き、その場に笑顔の輪が広がっていく。
…そのころ、沖縄タイムス社内ではワラビーを巡り、あるプロジェクトが動き始めていたのだった。
―このブログは、ワラビーが「ちゃんとしたワラビー」になるまでの成長物語です。みなさんで温かく見守ってもらえたら、ワラビーも喜びます。