君こそスターだワラビー (午)前編
君こそスターだワラビー (午)前編
2014年8月3日、那覇市久茂地・タイムスビルー。
「みんな、ワラビーまつり、はじまるよ!」
「うん、大きさはいいけど、もっと語尾を伸ばしたほうがいいんじゃないかなワラビー。『はっじまるよ~!』ぐらいで」
「そうですね、そうします!」
…という打ち合わせは特に生きることなく、普通にテープカットで「2014ワラビーまつりin那覇」が開幕した。
ワラビーが沖縄タイムスの広報担当になって以降、本社では初の「ワラビーまつり」。年で一番の晴れ舞台を迎えたワラビーには、果たしてどんな一日が待っているのであろうか。
まつりの開幕早々、子どもたちにどっと囲まれるワラビー。
「みんな、来てくれてありがとう!」
ワラビーの世話役であるいきものがかり・村井規儀(編集局学芸部主任)のまなざしも優しい。「いい日になるといいね、ワラビー」
タイムスビルの1階エントランス、2階ギャラリー、3階ホールまでワラビー一色に染まるこのイベント。来場者が思い思いにワラビーに仮装する「なりきりワラビー」コーナーでは、デジタル局課長の吉元晋作(手前右)、編集局社会部の新垣卓也(同左)が、朝から「なりきりグッズ」製作に大忙しだ。
吉元「みんな、お口だけじゃなく、手も動かしてね」
女の子たち「この人、ワラビーぶってるくせに先生みたい」「ねー」
会場はありがたいことに盛況。那覇、浦添両市のタイムス販売店主も懸命にイベントをサポートしてくれている。
一方、午前のタイムスホールでは、小学生タヒチアンダンスチーム「タヒチタマリィぎのわん」が息の合った独創的なダンスを披露。
それに負けじと、エグザイルプロフェッショナルジム沖縄校のスクール生は、ダイナミックなステージで観客を魅了した。
「ワニ先生」こと高安剛教諭(嘉手納高校)のサイエンスマジックショーは、子どもたちも興味津津。かぶりつき状態で楽しんでいた。
そんな中、本日の主役ワラビーは、ホールのオープニングを飾った「タヒチタマリィ」の楽屋を訪問していた。「みんな、すてきなダンスだったよ!」
「さわったらあったかいワラビー!」「ふかふかだー!」 感想がもはや羽毛布団と変わらないワラビー。
記念撮影もしてもらったところで、ワラビーは儀間貴哉代表に質問をぶつけた。
「ワラビーもいつかはだんさぶるになりたいんです。ぎ間だいひょう、ダンスがうまくなるにはどうしたらいいの?」
「そうだね。まずは笑顔と…あとは、本当に踊りたい!という気持ちじゃないかな」
「こんな数じの8みたいな体けいでも、大じょうぶですか…」 …気にしてたのかよ。
「踊っているうちにやせていくよ!でもワラビーは、やせたらかわいくなくなるんじゃない?」 気をつかってくれる儀間代表。「でもまずは手だね。手を伸ばすことが大切。お客さんへの見え方が違ってくるよ」
「こうかな?」
「そうそう、いいよワラビー」
「ああ、そうそう。いいですよ」 苦笑いする儀間代表。
「村井せんぱい、ゆびがほそいですね!『手タレ』みたい!」
「やだな、ヨイショはやめてよワラビー」
心底どうでもいいやりとりに、再び苦笑いする儀間代表だった。
「わたしたちもー!」そこで、遠巻きに見守っていた子どもたちもどっと参加。
ワラビー「わっ」
村井「あーみんな、ワラビーにはやさしく…」
村井「…なんか移動した―!」
ワラビーのことが大好きになってくれた「タヒチタマリィぎのわん」の子どもたち。名残惜しそうにエレベーターの前まで送ってくれた。「ワラビー、またねー!」
ワラビー「みんな、ありがとう!いつか一しょにおどってね!」
次の出演スケジュールに向け、通路を移動するワラビーと村井。
「村井せんぱい、『しあわせ』って気もち、ワラビーは、いままでぴんとこなかったけど…」
「きょうのワラビーのこの気もち、うれしくて、なんかはずかしくて、でもファイトがわくようなマーブルもようの気もちは、きっと『しあわせ』なんじゃないかと思うんだ」
「そうか…そうか、良かったね、ワラビー」村井はしみじみ共感する。
…ただ同時に、村井には不安も芽生える。きょうのワラビーのテンションは、どこか変だ。まるで熱病に浮かされた子どもにも見える。ワラビーの「テンション」はこの「ワラビーまつり」の成否を左右する要素だ。
(じぶんが主役のイベントで、すこし「平熱」が高くなっているんだな)。村井は何かにすがりつくように、その考えを支持することに決め込んだ。
しかし、村井の悪い予感は的中する。その5分後、わずかに目を離したすきに、「ワラビーまつり」会場から、ワラビーは姿を消した。
「…航哉、ワラビー見なかった?」
こわばった表情の村井。イベントを運営する「TEAMワラビー」の一員、総務局総務部の宮平航哉の声も上ずる。「え、村井さんと、ずっと一緒にいましたよね」
「そう、さっきまで一緒だったんだけど、いなくなっちゃったんだよ」
「マジですか?」
「次は12時からの『琉球いろはかるた大会』に出場するんだけど」
「今11時半ですよ」
「『オロオロ』口に出して言う人なかなかいないですよ、村井さん」
ワラビーが消えた。「ワラビーまつり」という名前を冠したイベントで、ワラビーに会いに来てくれた子どもたちにどう説明すればいいのか。村井の焦りは募る。「おいワラビー、どこだよ!」
2階ギャラリー。「おばぁタイムス」大城さとし先生、「まんが基地問題!」ittetsu先生によるマンガ教室会場を訪れた村井。作画に取り組む子どもたちのまなざしは真剣だ。
だが、村井に余裕は感じられない。「…ワラビー」。届かぬ声がむなしく響く。
「テルジュン、ワラビー見なかった?」
「え、いないんですか?あいつ主役なのに?」
「そうなんだよ、どこへ行ったことやら…」
「とりあえず、探し物をしている人には、『灯台下暗し』と言ってやることにしています」
なにかをひらめいた村井。ワラビーはきっと、あそこにいる。村井は慌ててギャラリーを飛び出した。
同時刻。ワラビーは… …灯台地下暗し、タイムスビル地下1階の、社員用駐輪場にいた。
「いろんなことを、思いだします…」
豊平良孝社長に辞令交付され、広報担当に任命されるまで引っ込み思案だったワラビー。人前に出るのも、会議に出るのもおっくうだった。誰にも干渉されない地下駐輪場はワラビーのオアシス。地下駐輪場で食べる、寝る、遊ぶのダメるるぶな自分がいた。
(ワラビーまつり、たくさんのかわいい子どもが来てくれました。たくさんの大人が来てくれました。ワラビーのために、社いんの人も、はん売店しゅの人も、一しょうけん命です…)
「…おいワラビー!やっぱここにいたのかよ!」そこに駆け込んできた村井。
「あ、村井せんぱい!」
「お前…ワラビーひきょうだぞ!まためんどくさくなったのか?あんなにいっぱいの人に慕われて、それでも逃げ出すのか?」
「ちがいます!」ワラビーはきっぱりと言う。「もうここには、こんなところには来ないって…ワラビーはいま『しあわせ』だから、その気もちをわすれないように、ちゃんと、じぶんに約そくしようと思ったんだ!」
村井は思わず息を飲んだ。「ワラビー…こんなとこにはもう来ないって…なんか、何だかすこしは、ちゃんとしたじゃん」
「ハイ!」ワラビーは元気にうなずく。
村井はいとも自然にワラビーの手を握っていた。「『ワラビーまつり』頑張ろうワラビー!お客さんはまだまだいっぱい来るよ!…ていうか、やっぱふかふかだねワラビーは!」
「ハイ!羽もうぶとんみたいって、よく言われます!あっためます!」
「…いいよ夏場だよ!」
ワラビーといきものがかり・村井のきずなは、何だかんだより深くなったのであった。
…同じころ。ワラビーと同じ匂いがする「動物」が一匹、タイムスビルに乗り込んできていた。「動物」は眠たげな眼で、着々とワラビーに迫りつつあった。
ー「君こそスターだワラビー (午)後編」に続く!
オロオロオロ…
針男さん、いつもありがとう!
村井せんぱいはときどき、マンガの音を口に出して言うのが玉にきずです…。