たまには淡々と仕事してみたらワラビー
たまには淡々と仕事してみたらワラビー
タイムスビル11階編集局、ある日の昼下がりー。
「もしもし、ワラビーだよ!……もしもし?……ハッ!これは無言でんわです!」
「…まさか村井せんぱいの身に、なにかハプニングが!?」
「…縁起でもないよワラビー」
「鳴ってもない電話を取るのやめようよ。日ごろ誰からもメールが来なくて、スパムメールの着信に一喜一憂している人みたいだよ」 悲しいな。
「だってやることないもん!…ヒマです!」 つきたてのモチのような脱力感を示すワラビー。
「しょうがないな。なんか仕事あったっけ…」
村井はデスクの上から写真一枚を取り上げると、ワラビーに手渡した。
「ほらワラビー。この提供写真のスキャンを頼まれてくれるかな」
「新聞に載せるために、紙の写真をパソコンで読み取ってデータ化するんだ。取材先からの預かり物だから、大事に扱うんだよ」
「はれ物にさわるようにあつかいます!」
「いじめの前兆みたいなこと言うな!」
写真部のパソコンとにらめっこする村井が指導する。「ほらワラビー、一度しか言わないからよく聞きな。僕はこのあと来客の予定があるから急いでるんだ」
「写真をスキャナに置いてふたをしめて、このソフトを立ち上げて、読み取り方式でカラーを選んでスキャンして…」
「村井せんぱい、ワラビーをスキャンしたらどうなるの?」
「スキャナが壊れるのが先か、子どもの夢が壊れるのが先か…」 その先はストップだ村井。
しかし、山の天気ぐらい移り気なワラビー。すぐによそ見を始める。(見なれない人が、こっちにやって来ます…)
「…てなわけで、手順は以上。じゃあワラビー、頼んだからね。僕はもう行くよ」村井は去ってしまった。
「あっ」 何も理解していなかったことに気づいたワラビーだが、時すでに遅し。
そのタイミングで、先ほどの人物からワラビーに声が掛かった。「Hi Kleiner ワラビー!会えてうれしいです!」
「えっ!だれ?」戸惑うワラビー。
「イッヒ ハイセ Go Theisen! ドイツのデュッセルドルフ大学から、琉球大学との交換留学制度で、先月沖縄に来ました。企業インターンシッププログラムで沖縄タイムスにお世話になってます!」
整ったマスクのくせにゆるキャラ好きなドイツ人 タイゼン剛(デュッセルドルフ大学人文学部 現代日本学科/音楽学学科)
「ワラビーはかわいいですねー」
さすがメルセデスを生んだドイツ出身のタイゼン。ワラビーとの車間距離を一気に詰めることに成功したようだ。
…そんなこんなで、なぜか席に落ち着いた一匹とドイツ人。
「タイゼンさん、さっきのイッヒ、ハイセ、ってなんですか…」
「ドイチェ…ドイツ語の自己紹介です。『私はタイゼンです』と言いました」
「ワラビーも言ってみたい!…イッヒ!イッヒ!イッヒ!」
「気もち悪い笑い方みたいです…」苦笑するタイゼン。
タイゼンは現在25歳。母親の友人であるピアノ講師が沖縄県出身者で、小さいころからかわいがってもらったという。「沖縄のお菓子や写真を通して、この島に憧れてきました。空手も習ったし、サンシンもひけます。今回は本当に、沖縄に『ようやく』来れたという気もちで嬉しいんです!」
ワラビーも感嘆する。「すごい!日本ごもワラビーより上手だし、ワラビーより『うちなーんちゅ』です!」
「まだまだです。日本語の勉強もこれからだし、サンシンも勉強したい。もちろんマスコミにも興味があります。沖縄でやりたいことが一杯です!」 自然に言葉に力がこもっていくタイゼン。
「がんばって!」エールを送るワラビー。
「ところで、ワラビーに会ったら見せたいものがありました」 タイゼンは自身のカバンを示した。
「そうです!千葉県のマスコットキャラクター、『チーバくん』です」
「タイゼンさんはワラビーよりチーバくんのことが好きなんですか…」 めんどくさい動物だな。
「え?違いますよワラビー。日本に来てびっくりしたことの一つは、『ゆるキャラ』がとても一杯あることでした。全国のゆるキャラに負けないように、ワラビーに頑張ってほしいだけですよ!」
やがて、タイゼンも国立劇場おきなわへ組踊の取材に行く時間がやってきた。
「ワラビーありがとう、今日はとても楽しかったです!」
「ワラビーも楽しかった!タイゼンさん、大好きな沖縄で頑張って!」
ワラビーとタイゼンは、さわやかにエールを交換して別れたのであった。
そして、タイゼンが去った後。
(しまった、おしゃべりにむちゅうで、ぜんぜんスキャンできていない…) 途方に暮れるワラビー。
見かねた写真部の金城健太が救い舟を出す。「ワラビー、代わりにスキャンしておいてあげるよ」
「やった!ありがとう金城せんぱい!」
「…やっぱり、しごとは大へんです!」 何もしていないのにくたびれたふぜいのワラビー。
しばらくして、来客対応を終えた村井が戻ってきた。「やあワラビー、スキャンしてくれてありがとうね。助かったよ」
「ハイ!大へんでしたけど、やりとげましたよ村井せんぱい!」 他力でだろ。
なぜか心がチクリと痛む、ワラビーなのであったー。
~ワラブロスタッフから次回予告~
ついにワラビーが、カンガルー科のポテンシャルを発揮する!? 那覇市泊の「とまりん」で開かれた「とまりんフェスタ」(11~14日)のイベント「ゆるキャラ運動会」に出場したワラビーが、踊る、走る、跳ぶの大活躍で会場をわかせました! 次回ワラビーブログ「泣き笑いの泊アスロンだワラビー」は21日(日)ごろ更新予定です。ご期待下さい!