泣き笑いの泊アスロンだワラビー 前編
泣き笑いの泊アスロンだワラビー 前編
9月10日、タイムスビル3階ホール前。「うさぎ跳び」という前時代的なトレーニングにいそしむ一匹のカンガルー科がいたー。
ワラビーが張り切っているのにはわけがある。9月12~14日に那覇市のとまりん特設会場で行われた「とまりんフェスタ」(主催・同実行委員会、共催・沖縄タイムス社など)のイベント「沖縄ゆるキャラ運動会」への出演依頼があったのだ。同フェスタは慶良間諸島が国立公園に指定されたことを記念して開催。3日間にわたって、泊港を発着する航路でつながる離島の物産展や音楽ライブなどがあり、期間中は親子連れや観光客らでにぎわった。
この時点での事前情報によると、運動会に出場するのは6キャラクター。①ダンス②かけっこ③すもうーの3種目で争い、合計得点により順位を決めるという。ワラビーにとっては広報担当就任以来、初となる仕事のオファー。気合も入るというものだ。
ー不知火(しらぬい)型の土俵入りも見せる。「…ワラ花田です!」 兄貴かよ。
一夜漬けのトレーニングは、本番で生きるのかー。ワラビーは無心でダッシュを繰り返すのであった。「がんばるよ!」
ーそして、いよいよ運動会当日の13日がやってきた。
会場は大にぎわい。
ステージではフラ団体の競演「アロ・ハイ祭」や、子どもたちが元気いっぱいのダンスや空手の演武を披露した「ちびっこ元気まつり」などが行われた。
「きんちょうしてきた…」 顔にはみじんも緊張感がにじんでいないワラビーも、運動会が始まる午後4時前に合わせて会場入りした。
…そのまま、広場をぶらぶら歩いてみることにしたようだ。「おいしそうなにおいがします…」
泊いゆまち食堂が提供していたのは、マグロのカマ焼き。 香ばしいにおいが辺りに漂う。見た目のインパクトと、ホクホクの身のおいしさが両立した人気メニューだ。
「ワラビーも一口どうだい」「沖縄美ら海まぐろ」のブランディング事業を手掛ける、カネヤマ水産の當山清伸さんがアツアツのカマ焼きを勧めてくれる。
「…と見せかけて、やっぱりあげない」 カマ焼きをすっと引っ込める當山さん。
「ごめんごめん、でも、お客さんを優先しないと。ワラビーをからかうのは面白いね。今度いゆまちに遊びにきてね」
「次こそマグロを食べさせてください!」
再び会場内をぶらつくワラビー。この日の那覇も、気温30度を超える真夏日となった。戸外のため、ワラビーの消耗も早そうだ。
やがて、何か大きな生き物を発見したワラビー。「ハッ!…ウマがいます!」 恋する乙女か。
これは「あおぞらファーム」のふれあい乗馬体験。馬に乗って会場内のコースをのんびり一周するという、「泊港と関係ないのでは?」と一瞬ハラハラしてしまうイベントだ。
どうやら昭和の乙女の定番、待ちぶせ作戦に出るようだ。
馬とワラビーの距離が、次第に縮まってくる。
「こんにちはおウマさん、ワラビーだよ!」 ここぞ的なタイミングで声を掛けるワラビー。
だが、馬は歩みを止めてしまった。どうやら、初めて見るワラビーにおびえているらしい。
しょうがないので、自ら馬に近づくワラビー。 「たてがみをさわらせて!ワラビーのトサカと、フサフサ対決しよう!」 何だそれ。
しかし馬は、次第に後ずさり始めた。(あのいきもの、こわい…)
飼い主の玉城真さんがすまなそうに言う。「ごめんねワラビー。馬が怖がっているみたいだから、遠近感を利用して、触っている感じの写真を撮ってよ」
結局、遠近感を利用して、馬を触っている感じの写真を撮らせてもらったワラビー。「なんだかもやもやする…」
ワラビーはそこで、木の枝からぶら下げられたニンジンに気付いた。「おウマさんのニンジンだと思うけど、ワラビーはおなかが空いている…」
そっと手を伸ばすと、 いきなり鼻をつかまれた。「あっ……村井せんぱい!?」
「ようワラビー、優しい村井じゃなくて悪かったな」
「えっ?…小林せんぱい!どうしたの?」
そこに現れたのは、経営企画室広報担当のワラビーの直属の上司に当たる、小林剛だ。
「アメとムチ」のムチの方 経営企画室主任 小林剛(絶賛プライベート中)
「ワラビーはいつも、『ワラビー担当いきものがかり』の村井に甘やかされているからな。今日はフェスタ実行委から正式な出演依頼があったわけだし、お前が羽目を外さないよう、俺が目を光らせに来たんだ」
「ロボみたいですね…」
「バカ、ホントに光るか!表現だ!」
「すいません…」
言葉こそ厳しい小林だが、休日にわざわざ足を運んだところから察するに、やはりワラビーが心配なのであろう。
「ワラビー、『ワラビーまつり』の時に俺が言ったアドバイスを覚えてるか?」
「ハイ!『(気を)ゆるめず、(甘えを)ゆるさず、(キャラは)ゆるくやれ』ですね!」
「よし。そろそろ、運動会に出場するゆるキャラが集合するらしいから、行くぞ。お前がこの暑さの中、3種目をやり遂げたら……ほめて、やらなくもないな」 ツンデレか。
(そういえば、そうです…)ワラビーは思い当たる。小林が一度も自分をほめてくれたことがないことに。
(小林せんぱいに「よくやった」と言われるんだ…) ワラビーの胸に、ひそかな決意が宿った。
そして、酷暑のゆるキャラ運動会が幕を開けたー。 (「泣き笑いの泊アスロンだワラビー」後編に続く)