泣き笑いの泊アスロンだワラビー 後編
泣き笑いの泊アスロンだワラビー 後編
9月14日、とまりんフェスタ「ゆるキャラ運動会」。第1種目「ダンス」に次いで、第2種目「かけっこ」が始まろうとしていた。 真夏の会場内約30メートルの直線距離をゆるキャラに走らせるという、あなたの思いやり、お出かけ中ですか的な競技だ。スタート地点におもむくゆるキャラたちの背にも、心なしか悲壮感がにじむ。
6キャラは2組に分けられ出走する。第1組は左からアバサンゴ、アニーちゃん、ワラビー組。
(れん習の成かを、はっきするぞ…)ワラビーは唯一、クラウチングスタートで号砲を待つ。
「ワラビー、その格好だと出遅れるんじゃない」 さすがは粟国島出身のアニーちゃん。キュートな見た目とは裏腹の粟国の塩対応だ。
司会がスタートコールに入る。「位置について…よーい」
(ドキドキ…)ワラビーの心音も高鳴った。
驚くことに、クラウチングから見事な体重移動を見せたワラビー。
ーそのゆるい体を、スムーズにスピードに乗せていく。(ハア、ハア……)
カンガルー科の俊敏さをガチで披露。ワラビーの加速は止まらない。後続をぐんぐん引き離す。(ハア、ハア……)
ーそして、ゴール直前。(自分への甘えを、ゆるさないぞ…ハア、ハア)
…空ぶった。「あっ」
…ともあれ、5秒03のタイムで走りきったワラビー。会場を大いにわかせたのである。
「れん習した時かんは、うらぎりません!」 …一夜漬けだけどな。
2組目ははえるんが制したが、
…タイムではワラビーが上回り、ワラビーは「かけっこ」で1位となった。
第2種目「かけっこ」結果:1位 ワラビー(5:03) 2位 はえるん(5:91) 3位 シーちゃん(6:41) 4位 アバサンゴ(12:62) 5位 アニーちゃん(14:00) 6位 ナビィちゃん(28:61)
ダンス2位、かけっこ1位で終えたことで、総合優勝の可能性が高まってきたワラビー。不安と期待を胸に、いよいよ最終種目「すもう」に挑む。
「…小林せんぱいを、手ぶらでかえすわけにいきません!」 どこかで聞いたぞ。
トーナメント形式で争われた「すもう」。ワラビーの初戦の相手はシーちゃん。かけっこ3位の成績を考えると、身体能力的にあなどれない相手だ。「よろしくね!」「シーちゃんは負けないシー!」
「あっ」ワラビーは面食らった。シーちゃんがいきなり回転し始めたからだ。
シーちゃんの、空気抵抗が少なそうな頭部を生かした奇策に、ワラビーはほんろうされる。「目が回って、シーちゃんの体を、つかめない…」
回転するシークヮーサーはワラビーの後ろへ回り込む。「ワラビー、一気に行かせてもらうシー!」
「あっ、まずいです!」
回転の慣性も生かしながらの、シーちゃんの突っ張りがワラビーをとらえた。 …ぐらり、体勢を崩すワラビー。
「ワラビー!」「ワラビー頑張れ!」 会場からも悲鳴のような声援が上がる。
…だが、せっかくの声援むなしく、ワラビーはその場に崩れ落ちた。シーちゃんの突き出しでの勝利だ。
ワラ「くやしい黒星です!」
それでもぐっと涙をこらえ、勝者シーちゃんをたたえるワラビー。「シーちゃん強い!」
残念ながらワラビーは1回戦で姿を消したが、「すもう」はその後も熱戦を展開。最終的にはナビィちゃんが制し、ウチナー女性の強さを見せつけた格好となった。
最終種目「すもう」結果:優勝 ナビィちゃん 準優勝 はえるん
ゆるキャラたちが気力と体力を振り絞った運動会は、3種目に渡り好成績をおさめたはえるんが総合優勝を果たした。ワラビーは「すもう」が足を引っ張り、2位に終わった。
優勝したはえるんは「子どもたちに夢を見せようと頑張ったルン♪南風原の魅力を県内、全国、世界へ広げていきたいですルン♪」と元気よく語った。
総合成績:1位 はえるん 2位 ワラビー 3位 シーちゃん 4位 ナビィちゃん 5位 アニーちゃん 6位 アバサンゴ
フェスタ実行委の上地安智会長は「各地域が元気を出し、生き生きとすることが大事。これからも地域を代表して、頑張って下さい」と、ゆるキャラたちを激励した。
「運動会」終了後、ステージを降りたワラビーは、控室でぐったり。「ハア、ハア…」
そのまま、体を引きずるようにして歩きだした。「ハア、ハア…」
やってきたのは、会場内の救護テント。 ワラビーはテント内に倒れこむ。「限かいです!」
「ようワラビー…運動会どうだった?」声を掛けてきたのは、ワラビーの直属の上司、小林剛。
「ハア、ハア…小林せんぱいの言葉を忘れずに、がんばりました!」
「ゆるめず、ゆるさず、ゆるくやれ、か……確かに今回は、気をゆるめなかったし、自分への甘えもゆるさなかったな…」
「ハイ!…ハア、ハア」 小林せんぱいに、ほめてもらえるかもしれない。体力の限界をさまよいながら、ワラビーは期待をかける。
「…だが、ゆるくない!なんだあのガチ勝負は!ほほ笑ましさが足りないぞ!もっと、『緊張と緩和』を追及しろ!」小林は厳しくしっ責する。
「…えー!?」ワラビーは急速にがくっときた。
そこで、小林はそっと濡れタオルを取りだし、ワラビーのひたいに置いた。「とりあえず、休め。体調管理も社会人の仕事のうちだ」
上司が示した、絶妙なツンデレ感。ワラビーの胸中には温かいものが広がった。
(ワラビーの成長はうれしいけど、ほめるって難しいよな…) しみじみ思う小林であったー。