「芸術の春」ハズカム!なんだワラビー(前編)
第67回沖展 編
3月21日午前8時すぎ、浦添市民体育館―。建物の外周を、せわしげに歩く有袋類の姿があった。「いそがしい、いそがしい…」
この日は「第67回沖展」の開幕日。オープニングセレモニーを待つ会場の入り口わきで、ワラビーは何らかの作業をしているようだ。「かざり付けのセンスが、とわれます!」
―そして午前9時半、第67回沖展がファンファーレの中、華やかに開幕した。
「沖展」(主催・沖縄タイムス社、協力・浦添市、同市教育委員会)は沖縄県内で最大の美術公募展。絵画、版画、彫刻、グラフィックデザイン、書芸、写真、工芸(陶芸、漆芸、染色、織物、ガラス、木工芸)の7部門12ジャンルの作品、計825点の力作が並ぶ。4月5日まで。
同展は沖縄戦後に県内が荒廃し、県民が消沈する中で「郷土の再建には文化を復興することが県民の支えになる」との精神から、タイムス創刊1周年の1949年7月に始まった。県内若手芸術家の登竜門としての役割も果たしながら、着実に歴史を重ねてきた。
沖縄タイムス社の豊平良孝社長は「例年以上の素晴らしい作品。16日間、沖展を満喫してほしい」と期待。
浦添市の松本哲治市長は「渾身(こんしん)の作品を目の前にして圧倒される思い。春を彩る『美の祭典』。例年以上に多くの方にご来場いただきたい」と呼び掛けた。
「ワラビー早かったね。もう来てたの」 ワラビー担当いきものがかり・村井規儀も会場に到着した。
「寝ぼすけなのに珍しい」
「あたたかくなったので、カツどん的です!……あれ?カツどん?」
「活動的だろ。さあ、会場をレポートするよ」
「ハイ!(ランチはカツどんをたべよう…)」
体育館のフロア一面を使った展示スペース。そこへずらり並んだ力作は、広い会場を狭く感じさせるようだ。
「すみからすみまで作品でいっぱい!どれも上手で、ワラビーも目を大きくして見ちゃいます!」 いつも半目のくせに。
「825点の作品に、それぞれアイデアと時間とストーリーが詰まっている。作家の気合を感じるね」
「きあい、きあいも好きのうち…」
「よく分かんないこと言うなよ」
「あっ、本ものみたいなシーサーです!こんにちは、ワラビーだよ!」
「シーサーに『本物』っているのかよ。それに、陶芸のシーサーが反応するわけないだろ」 「村井せんぱい」が「ドライせんぱい」化した。
「できるならやってみなよワラビー」
「じゃあまず、村井せんぱいが、シーサーのスイッチをさがして?」
「AIBOじゃないんだよ!」
「ハッ!ボールがういている…『世界こんなところに無重力』です!」
「まさか。でもパッと見で引きつけられるね。漆芸で奨励賞を取った『浮遊(ふゆう)』という作品みたいだよ」
「ふしぎです!ねえ村井せんぱい、こうやって手をかざすと、超のう力っぽいよ!こんなことができたら、きっとクラスの人気ものになるにちがいない…」
「いや、多分ボールは浮いても、クラスでも浮いちゃうよワラビ―」
「…えー?」
続いてワラビーと村井がやってきたのは彫刻コーナー。「わあー!サルです!」
「村井せんぱいです!…プッ!ウフ!ウフフフ!ウフフアハハハハ!」なぜかハマったらしい有袋類。
「似てないだろ!何でツボに入ったんだよ!」
村井がコホン、とせき払いした。「…それよりもワラビー、さっきから、この大きな耳や―」
「―この大きな体から伸びるしっぽが、作品にぶつからないか、ひやひやしてるんだよね」
「しょうがないだろ、ワラビーの顔は大きいんだから。それに、大事な作品に傷をつけられないだろ」
「たしかに、かおも体も大きいけど……しっぽを引っぱられるのはイヤです!…しばらく、一ぴきにさせてください!」
村井の手を振りほどいたワラビーは、すたすたと歩きだした。
「あっそう。じゃあ勝手にしろよ」 村井もそっぽを向く。
(小がおの村井せんぱいには、かおの大きなワラビーの気もちはわからないにちがいない…)とぼとぼと歩くワラビー。
(かおの大きな人の絵をさがしたら、この絵にたどりついた…) そんな鑑賞ありか。
そこに通りかかったのは、沖展を取材に来ていた、編集局学芸部主任の吉田伸。「ワラビー、熱心なのはいいけど、顔近すぎだろ」
「え?かおデカすぎだろ?」 ハッとする有袋類。
「違う違う。自虐的だな。村井と一緒じゃなかったのか?」
「伸せんぱい、じつは村井せんぱいと、ちょっとモヤモヤしたことがありました…」
「そうなのか?」吉田は優しく語り掛ける。「でも村井はいつも、ワラビーのためを思って行動しているんじゃない?『いきものがかり』としての監督責任以上に、大事にしてもらっているだろ」
「ハイ、それは分かります…」
グラフィックデザインコーナーまでやって来たワラビーと吉田。
「ほら、あそこに村井がいるよ」 吉田が指し示す。
「村井せんぱい…」村井のもとにおずおずと近づくワラビーが、あることに気づいた。
「ああ。違うよワラビー。この作品に『踏まれても踏まれても生きていく』強い精神を見たんだ。すると心が揺さぶられちゃってつい、ホロリホロリとね…」
「え?どの作品?」 興味を引かれるワラビー。
「さっぱり分からないけど、ワラビーは村井せんぱいが泣いていると、心がソワソワするので、あんまり見たくないです…」
「あっ!村井せんぱい、あっちを見て!」 そう言うやいなや、コーナーの角に村井を連れて行くワラビー。「ティッシュがたくさんあります!なみだをふいて!」
「ホントだー!…ってこれは作品の一つだよワラビー。使っちゃだめ!」
「…えー!かわった作品です!」
「確かにユニークだけどさ。ホントしょうがないな、ワラビーは…」 そう言った村井の口調には、少しもとげとげしさはないのであった―。
鑑賞に疲れ、ベンチでひと休みするワラビーと村井。
ワラビーが口を開いた。「村井せんぱい、いつもワラビーのためにありがとう!」
「何だよ急に。変なやつだな」 苦笑いする村井。
「さて、あらかた楽しんだし、帰ろうかワラビー」
「え?何を言い出したのさ!?」 戸惑いを隠せない村井。
「ウフフフ……」
不敵に笑うワラビーの意図はどこにあるのか―。
「『芸術の春』ハズカム!なんだワラビー」後編へ続く!
~ワラビーからお知らせ~
沖展は4月5日(日)まで、浦添市民体育館でやってます!
時間は午前10時~午後6時(入場は午後5時30分まで)、※最終日は午後5時までの入場です!
入場料は大人1000円、小中高生500円、未就学児は無料だよ!
3月29日午後2~4時は予約制の陶芸教室(ろくろ体験・面シーサ―作り)も開催!
会期中は各部門の作品解説会も行われます!
同じ会場で29日まで、浦添市の食品や加工品、工芸品がいっぱいの物産展もやっています!
詳しくはこちらでチェックしてね! 予約と問い合わせの電話番号は098-877-8055(沖展事務局)です!
家族で芸術に触れ、語り合うチャンスです!
後編は23日ごろ更新する予定です。お楽しみに!