心もざわわと揺らすパフォーマンスさワラビー(前編)
第21回おきでんシュガーホール新人演奏会 編
梅雨入りした沖縄はこの日22日も曇り空。那覇市久茂地のタイムスビル12階では、陰うつなグレーな空に対抗するように、白黒つける娯楽に打ち込むワラビーの姿があったー。
「ひとりオセロで7勝7敗。…勝ち負けが決まりません!」 ふびんな動物だな。
「ワラビー、懐かしい遊びをやってるじゃないか」 声を掛けてきたのはワラビー直属の上司、経営企画室主任の小林剛だ。
「何だその動詞は。言っとくけど、おれは強いからな」
「ワラビー、どっち取る?」
「ワラビーは白でたたかいます!」
「そうか、じゃあおれは黒だな」 小林はゆっくりと着席した。
(10分後)
「ほら、これで終わりだワラビー」
ゆうゆうと去る小林。「じゃあなワラビー。いつでも挑戦してきな」
しばらくその場で落ち込んでいたワラビー。やがて同じフロアにワラビー担当いきものがかり・村井規儀(編集局学芸部主任)の姿を見つけた。
「ああワラビー。相手をしてあげたいけど、僕はいま急いでるんだ。ここ12階の役員室で表敬訪問の取材があるんだよ」
「だれが来たの?」
「これからのクラシック界をになう若き才能たちだよ。第21回おきでんシュガーホール新人演奏会に出場する音楽家3人が来社したんだ」 村井はチラシを手に説明した。
「ほほう、若き才のう…ワラビーもよく『やればできる子』と言われます!」
「そんなこと言う前にまずやってみなよ。僕は『不言実行』が好きだな」 ごもっとも。
「あと、あと、シュガーホールには『おかしの家』のような甘いひびきがあります!ねえ村井せんぱい、ワラビーも…」
「連れてかないよ!…ていうか、そういういつものペースに付き合っている暇はないんだよワラビー。今度遊んであげるから。じゃあ」
村井も足早に去って行き、取り残されるワラビー。「ヒマです!」
ところ変わって役員室には、3月のオーディションで入賞した演奏家3人が訪れていた。
演奏会は南城市と沖縄電力、沖縄タイムス社の3者主催で毎年開かれ、優れた音楽家の発掘や、地域の音楽文化振興、国際交流の推進を目指している。
1994年、同市佐敷に音楽専用のシュガーホールが開館したのを機に始まり、若手クラシック演奏家の登竜門としても知られる。
ことしは24日(日)午後3時から開催。10人が熱意あふれるパフォーマンスを披露する。入場料は一般2000円、高校生以下1000円だ。
「観客に感動を届ける演奏を目指す」と力を込めるのは、オーディションでグランプリを獲得した、チェロの藤原秀章さん(山梨県出身、東京芸術大学)。他分野の審査員とも音楽を共有できた手応えがあったという。ちなみに姉・晶世さんは昨年度のグランプリ受賞者だ。
「パリ留学を経た成長を地元・沖縄の人へ見てもらいたい」とピアノの宮永霞さん(宜野湾市、パリ地方国立音楽院修了)。リラックスしたムードで場をなごませた。
「沖縄のみなさんに私の歌で感動を届けたい」と話すのはソプラノの北園あかねさん(兵庫県出身、県立芸術大学大学院修了)。表情にも「歌える喜び」がにじみ出るようだ。
ひとしきり意気込みを語った後、一同の話題はシュガーホールに。
藤原さんが建物の感想をもらした。「サトウキビの中にあって、白くて…いかにも沖縄、という感じですよね。あれ、自然に生えているわけじゃないですよね。サトウキビ」
沖縄タイムス常務取締役、新里正次が引き取る。
「もちろん農家が植えてますよ。うねを作って、苗を植えて…11月から2月にかけて刈り取って…ちょっと待ってなさい」新里常務は腰を上げて退室したと思いきや、しばらくして戻ってきた。「はい、ちょうど黒糖があった」
黒糖を配り始めた新里常務。藤原さんらは笑顔で口にする。「おいしい」
「ほら、宮永さん、北園さんも」カメーカメー攻撃を繰り出す常務。「お茶と合うんだよね」
「私、小さいころ、父に『シュガーホールは砂糖でできている』って言われて、ずっと信じていました」 せんえつながらお父上、発想がワラビーと同じだぞ。
「でもすてきです!」北園さんが突然、乙女心を受信した。
そこまで聞いていた村井がたまりかねたように言う。「あのみなさん、たいへん申し上げづらいんですけど、砂糖よりも、音楽の話しませんか?」
「…ああ」「ホントだ」「そういえばそうですね」「何かすいません」「…すまんな村井」 しゅんとなる大人たち。
―そんなこんなで役員表敬を終え、若手演奏家一行はタイムスビル1階を目指す。この後にロビーで、本番の演奏会の告知を兼ねたミニ演奏会が開かれるのだ。
すると一行の前に、あからさまにかまってほしそうな動物が立ちはだかった。
「…みんなまって!ワラビーもミニ演そう会で、このたてぶえを一しょに演そうします!」
女性二人は大喜び。「ワラビーって言うの?」「かわいい!」
「ワラビーはたてぶえを上手にひけます!ワラビーも去年、タイムスの広ほう担当になったばかりなので、新人のみんなとは、きっと新人の同級生だよ!」 偉そうに。
村井が止めに入る。「ワラビー、みなさんはミニ演奏会を控えているし、ふざけている暇はないんだよ。ほら、その笛をよこしな」
嫌がる有袋類。「ワラビーも毎日電気を使っているから、おきでんの演そう会に出る資かくはあります!」
「使ってるだけで電気代払ってないだろ!なにそのクレーマー的発想!」村井が突っこむ。「とにかくこれは、しばらく没収!」
ついには村井に、リコーダーを没収されたワラビーであった―。
「心もざわわと揺らすパフォーマンスさワラビー(後編)」へ続きます!
~ワラビーからお知らせ~
「第21回おきでんシュガーホール新人演奏会」は24日(日)の午後3時開演(午後2時半開場)です!事前オーディションで選ばれたグランプリ受賞者の藤原さん、両優秀賞の北園さん、宮永さんを含む10人の若手音楽家が出演するよ!情熱を感じてください!
会場はもちろん南城市文化センター・シュガーホール!
チケットは一般2000円、高校生以下1000円で、販売はシュガーホール、文教ハーモニー那覇店、デパートリウボウ、コープあぷれ、島ピアノ、普久原楽器店などです!
問い合わせは同ホール、電話098(947)1100までお願いします。
ミニ演奏会の行方は?あのオセロって意味あったの?…といろいろ気になるブログ後編はあす23日(土)更新予定です!お楽しみに!