心もざわわと揺らすパフォーマンスさワラビー(後編)
第21回おきでんシュガーホール新人演奏会 編
前回からの続きです。
那覇市久茂地のタイムスビル1階ロビーでは22日正午、第21回おきでんシュガーホール新人演奏会(24日)に出場した新人音楽家3人によるミニ演奏会が開かれようとしていた。
演奏会参加はかなわなかったものの、とりあえず1階に降りてきたワラビー。「村井せんぱい、人がどんどんあつまっています!」
「実力を持ったメンツだからね。ミニ演奏会と言わず、3階のタイムスホールでゆっくり聴きたいくらいだよ」 ワラビーに応じるのはいきものがかり・村井規儀。
「ホール?ワラビーが好きなケーキはホールケーキ…」
「質より量かよワラビー」
会場設営に少々時間を取られ、スタートが遅れてしまった。チェロを演奏する藤原秀章さん(東京芸術大学在学)、ソプラノを披露する北園あかねさん(県立芸術大学大学院修了)はそれぞれ、楽器やのどの調整に余念がない。
会場のテンションも高まる中で、テンションとは無縁の、手持ちぶさたな有袋類。「ヒマです……ハッ!ワラビーが音楽家のささくれだと、しょう明するものがありました!」 端くれだろ。
そこで、何やら取りだしたワラビー。「ワラビーのデビューシングル、『ワ・ワ・ワ・ワラビー』だよ!これを見せたら、演そう会に引っぱりだこです!」
…顔が微妙に違うぞ。
さっそく北園さんと宮永霞さん(ピアノ・パリ地方国立音楽院修了)に見せに行く有袋類。「ほら、ワラビーのCDだよ!プラチナディスクです!」 ふらちな動機のくせに。
「へえーすごいねワラビー!」感心してあげる北園さん。
「何だか今と顔違うねー」そこは目をつぶるんだ宮永さん。
(藤わらさんにも自まんしておこう…)背後から藤原さんに迫るワラビー。
「藤わらさん、ワラビーのファーストシングルだよ!」 そしてラストシングルだろ。
「ワラビー、CD出してたの」付き合ってくれる藤原さん。「でも、今はごめんね。チェロの調弦しててさ。やっぱ湿気がすごくて…」
高温多湿な日本の中でもさらに高温多湿な亜熱帯・沖縄。チェリスト泣かせの気候の中でのグランプリ獲得は、やはり実力の高さを感じさせる。
村井が止めに入った。「ワラビー、そのへんにしときなよ。本番前なんだから…」
「ハイ…」しょげるワラビー。
村井「こらワラビー!アメリカ西海岸風にラジカセ持ってきて、勝手に自分のCD流しちゃダメ!」
そしてようやく、ミニ演奏会は始まった。3人を壇上へ率いてきたワラビーもひと言。
「フレッシュな3人とワラビーを、みんなで応えんしてね!」 とんだ便乗だな。
残念ながらタイムスビルにはピアノがないため、宮永さんはあいさつのみの登場となった。
演奏会では藤原さんがのびやかなチェロを聴かせた。ランチ時間の耳のごちそう。心地よくも荘厳な空気がロビーに満ちる。
(ワラビーも演そうしたかった…)ギャラリーの中、グランプリ受賞者の演奏を見つめるワラビー。
すると、演奏会の司会で、シュガーホールがある南城市の企画部まちづくり推進課・新垣琴子さんがそっと気を利かせてくれた。「ワラビー、演奏会に出たかったんでしょう?タクト(指揮棒)を貸してあげる。振っていいよ」
かくして、約9カ月ぶりにタクトを手にしたワラビー。音楽に合わせ、ゆったりと、時に激しく、タクトを振る。
(音がくは…すてきです!楽しい!)ワラビーの体と心がしなやかなタクトのようにはずむ。
だが、村井はやはり気づいた。「…相変わらず、指揮者見られてねえ―!」
続く北園さんは「芭蕉布」をソプラノで唄う。空間が広がりを増すよう。生き生きとした表情にも引き込まれる。
県民おなじみの楽曲をクラシックの技法で。わずか15分間でも密度が濃い、充実のミニ演奏会は大きな拍手のうちに幕を閉じた。
―そんな中、ワラビーはピアノの宮永さんのもとへ。
「宮永さん、ピアノひかないの?」
「うーん。このビルにピアノがなくって。残念だけどこのやる気は、あさってのバルトークにぶつけるよ」
「ワラビーもききたかったです……ハッ!あれです!」何かを思いついたワラビー。立ち上がり、その場を離れようとする。「宮永さん、まってて!」
「え?」戸惑う宮永さん。「どこ行くの?」
―しばらくして、1階へ戻ってきたワラビー。「宮永さん、ワラビーがピアノをつくってきました!」
「白と黒のけっさく…オセロピアノです!」…何だこれ。
宮永さんはしばらく絶句していたが、やがて口を開いた。「ごめんねワラビー。気もちはうれしいけど…ひけないし音出ないし白黒だからいいってもんじゃないし」
そこで、村井も飛んできた。「どうしました?うちの子が何かやらかしましたか?」
「あ、大丈夫ですよ村井さん。でもありがとうねワラビー」ワラビーをフォローしてくれる宮永さん。
「ハイ…ワラビーのエアピアノ…」 「エア」じゃないだろ。
どうでもいいけどワラビーの目ってオセロみたくない?そんなことを思うワラビーブログスタッフなのであった―。