ウージの葉ずれ若き音楽とハモれよワラビー
第22回おきでんシュガーホール新人演奏会 編
梅雨入りした那覇市の空に、数日ぶりに晴れ間がのぞいた5月20日午前。沖縄タイムスの広報担当・ワラビーはタイムスビル11階の編集局学芸部にやってきた。
ちょうどパソコンへ向かっていたワラビー担当いきものがかり・榮門(えいもん)琴音の背中へ声を掛ける。
「ことねせんぱい、おしえて!」
「どうしたのワラビー。…楽譜?」
「ハイ!ワラビーは今日、ランチタイムミニコンサートにお呼ばれしたので、一曲ひろうします!曲のひろうには、楽ふの理かいが必ようです!」 何をいっちょまえに。
「そうかー。すごいねワラビー。楽譜読めるの?」
「よめないけど、音ぷがおだんごに似てるので、見ててたのしいです!」
「…観賞用なんだ」
「この楽ふの先頭の、うずまきアメの」
「よこのいたチョコみたいなやつがカッコいいです!名まえをおしえて!」
「いたチョコ…ああ、シャープ」
「シャープ…名まえもカッコいい!」喜ぶ有袋類。
「半音上がる…音を少し高くしてね、…ってことなんだけど、それよりワラビー、一曲披露するってなに」
(―あ、これ何だろう。いやな予感がする)そうして榮門は言った。「ワラビー、私も行くよ」
「ことねせんぱいも?やった!」はしゃぐ有袋類。
一方そのころ、12階役員応接室では、沖縄タイムスの上原徹常務が若き音楽家らの表敬を受けていた。
彼らは今月22日午後3時から、南城市文化センターシュガーホール(外間勝利館長)で開かれる「第22回おきでんシュガーホール新人演奏会」(主催・同市、沖縄電力、沖縄タイムス社)に出演するメンバー。3月のオーディションで選抜され、これからそのキャリアを世界へ羽ばたかせていく新鋭たちだ。
そのオーディションでグランプリに輝いたのは篠原拓也さん(オーボエ、千葉県出身、東京音楽大学卒)。シュガーホールは「オーボエには理想の大きさと響き」とし、「今回はお客さんが入るので楽しみ。沖縄の人に聞いてもらえるのをうれしく感じる」と語った。
優秀賞は照屋篤紀さん(テノール、沖縄市出身、武蔵野音楽大学大学院修了)。沖縄で歌うのは3年ぶりで「すごい楽しみ。中学の同級生もみんな呼んだ」と気合が入る。
新設された沖縄賞を受賞した平良史子さん(アルト・サクソフォン、宮古島市出身、昭和音楽大学短期大学部卒)は「地元宮古島の曲を吹けるのが楽しみ」。同島の人は誰もが口ずさめる「なり山アヤグ」が本番でどうアレンジされるのか。
「シュガーホールは多くの先輩が出場した夢の舞台」という入選の砂辺絢斗さん(ピアノ、読谷村出身、沖縄県立芸術大学卒)。「そんな舞台で弾かせてもらえてうれしい」と喜ぶ。
若きスターたちの祭典となる22日は、フルーティストの渡久地圭さんがコンサートガイドを務め、4人を含む8人が出演。それぞれが情熱あふれる響きを届けることに加え、シュガーホール誕生以来の同演奏会では初となる、出演者全員によるアンサンブル・フィナーレで幕を閉じるという。新鋭たちの音楽がどう融合するのか。聴き所は多そうだ。
さて、そんな音楽家4人によるランチタイムミニコンサートの時間が迫ってきた。タイムスビル1階ロビーにはすでに人が集まり始めている。
「今日はワラビーの音楽を、きかせます!」 意気込みで前のめりになりながらワラビー登場。手には毎度演奏者に見てもらえない空振りタクトを持っている。
「お呼ばれされたからって、変なことしたらダメだからねワラビー(ワラビーの音楽はお呼ばれされていないのだから…)」 本音を飲み込む榮門。
だが、そこで足を止めたワラビー。「ハッ!今日は指きじゃなかった…ことねせんぱい、これもってて!」 榮門へタクトを手渡した。
「あれ、いいの?」
「ハイ!」
―数分後、なぜかハンガーラックを運びながら、ガラガラ再登場した有袋類。「新しい音楽の、おひろめです!」
「ことねせんぱい、『ワラビーハンガー音楽たい』だよ!」
「ハリガネやプラスチック…ハンガーのそ材のちがいで音もちがいます!これを生かして、ハープのようにメロディをかなでます!」 ほこらしげな有袋類。
「…えっ、独りなのに音楽隊なの?」
すると、上原常務が割って入ってきた。「おいワラビー。みっともないことはするな」
「えっ?今日はワラビーハンガー音楽たいのデビューです!」
常務は否定した。「違う。ハンガーに洗濯バサミが付けっぱなしでみっともないだろ。ほら取れ」
「ハッ!たしかにみっともない…!上原じょうむ、ありがとう!」
「…そこ共感する!?」思わずツッコむ榮門。
―やがて時刻は正午となり、いよいよミニコンサートが始まった。
まずはアルトサックス平良さん、ピアノ砂辺さんによるエルガー「愛の挨拶(あいさつ)」がオープニングを飾る。美しいピアノの音をバックに、情感たっぷりのサックスがロビーから久茂地の街へ響いていった。何て優雅なランチタイム。
―そして立ち上がるワラビー。
「心がうごいたとき、立ち上がって手をたたきます!」
「ああ、スタンディングオベーション?」 独特すぎるだろ。
続く照屋さんはテノールで「てぃんさぐぬ花」を披露。豊かな歌声は伸びに伸び、「いつものロビー」がにわかにコンサートホール化したようだ。
オーボエの藤原さんは同楽器のミニ講座も実施。口にくわえ息を吹き込む部分「リード」は奏者自身が木を削って作るという。「練習時間よりもリードを削っている時間の方が長いです」と笑わせた。
その後、Kiroroの「未来へ」を、優しい音色できっちりと聴かせてくれた。
惜しみない拍手を送るワラビーといきものがかり。榮門が口を開いた。「ぜいたくで素敵な時間だね、ワラビー」
すると場内に、「次が最後の曲目です」のアナウンスが。
ラストは4人全員で「花は咲く」を披露した。一つ一つの音が、声が、重なり合っていくワクワク感。
―その中で唯一、焦りだすワラビー。(これがさい後ってことは、ワラビーの出ばんがないってことです!)
急いでハンガーラックに駆け寄った。「ワラビーハンガー音楽たいも、さん加するよ!」
そう言うと、音楽に合わせ、ハンガーをつまびきだす有袋類。…ロビーに、ご家庭でもすぐ出せるカチャカチャ音が響きだした。「たのしい!」
「ちょっとワラビー、なにやってるの!」慌てて榮門が止めに入った。「新人音楽家の演奏中なんだから、静かに聴いて!」
「あっ…ことねせんぱい、ワラビーが『ワラビーハンガー音楽たい』を演そうするのをとめないで!」 楽器名だったんかそれ。
―そんなことをしているうちにコンサートも終わり。
「…でも、村井せんぱいなら一しょにひいてくれたかも!」
「村井さんはもういないの。今は私がいきものがかりなんだから。ワラビーを『ちゃんとしたワラビー』にする、責任があるんだからね」
「ハイ、でも…」
そんな反省会中の一匹と一人のもとへ、歩み寄る4人分の人影と足音が。
「ちょっとワラビー、演奏中にハンガーなんか、いじりだすのはやめてほしいな」「集中力が途切れるんだよ」「目立つからね」とがめるような強い口調が近づいてくる。
篠原・照屋・平良・砂辺「いいかげんにしてよワラビー!」
さらに、振り向いたワラビーが見たものは―。
ワラ「ハッ!…音がはんぶん、上がってます!」
顔文字(`Д´#) か。
一方の榮門も―。
―まさかの♭(フラット)かよ。
榮門「演奏の邪魔をしてすいませんでした」
一同「気をつけてね」「純粋に音楽を楽しみたい人がくる場だから」
ワラ「ハイ、人の演そうは、しずかにきくよ!」
ワラ「みんなありがとう!22日の本ばんはすてきな音をきかせてね!」
それはさておき、音楽家は怒りも音楽で表現するのか。さすがパフォーマー。そんなことを感じたワラビーブログスタッフであった―。
~ワラビーからお知らせ~
第22回おきでんシュガーホール新人演奏会は5月22日(日)午後3時から、南城市文化センターシュガーホールで開かれます!
ワラビーと仲良くしてくれた4人を含め、いずれ世界で活躍する新進の音楽家8人が、フレッシュで情熱あふれる演奏をしてくれるはずです!
パンフレットも参考にしてね!