漫画家のうちへ遊びに行こうぜワラビー


沖縄を好きになった漫画家が寛容すぎてツラすぎる 編

 まだまだ梅雨も明けない初夏の某日。沖縄タイムスの広報担当・ワラビーは那覇市久茂地のタイムスビル、4階リフレッシュスペースで何かを読みふけっていた。

 「でーじだったね…あわてぃーはーてぃ…あちゃーやー…ホウ…」なにやらため息をつく有袋類。「ワラビーもうまくしゃべれないウチナーグチが満さいのマンガです!」

 そう、ワラビーが読んでいるのは昨年から県内外で話題を集めているマンガ「沖縄で好きになった子が方言過ぎてツラすぎる」(著・空えぐみ)。

 県外から沖縄に転入してきた主人公の男子高校生が、好きな女の子が日常的に話しているウチナーグチが理解できずに振り回される「異文化ラブコメ」。「カメ―カメ―攻撃」や「県民は海で水着を着ない」などの「沖縄あるある」も楽しめるのだ。

 「でーじです!こんなに沖なわのことを知っている、作しゃの空えぐみ先生はきっと、でーじな(すごい)ウチナーンチュにちがいない…普つうのウチナーンチュを『フチナーンチュ』としたら、えぐみ先生は『デージナウチナーンチュ』です!」 略しないのかよ

 

 「こんなマンガを描く人はきっと、ワラビーよりも年うえで、やけたはだがよくにあう、エイサー好きなひとにちがいない…」 いや待てよそいつ誰だ。「決めました!ワラビーは、自まんの嗅かくを生かして、空えぐみ先生に会いにいきます!」おもむろに立ち上がったワラビーは、そのままテクテク歩き出した。

  こうしてヒマを持て余していた有袋類は一路、マンガ家のもとへ向かったのである―。

 

 ―さて、ワラビー担当いきものがかり・榮門琴音のお膝元であるうるま市の某所。何かと人々を引きつける吸引力のあるスポット・ダイソンシティことサンエー与勝シティに吸い寄せられることなく、ワラビーは無事、あるアパートにたどり着いていた。

 「タイムスの学げい部の記者が、えぐみ先生の住しょを知っていたよ!たよるべきは近くの他人です!」 同僚を「他人」よばわりする有袋類。

 「ピンポンがありました!ここは押すっきゃないです!」「押す」以外の選択肢があれば教えてほしい。

 ♩ピンポン♪

 「はーい」ドアが開き、シーサーの仮面をかぶった男性が現れた。

 「こんにちは、そらえぐみ先生!ワラビーだよ!」

 「ワラビー!?」

 「『沖ツラ』がおもしろかったので、あそびにきました!ワラビーにかまって?」

 「あ、ああ、ありがとう。どうぞ、上がって(グイグイ来るな…)」

 

 …マンガ「沖ツラ」のあらすじはこうだ。主人公の中村照秋(てーるー)の初恋の相手は、同じクラスの喜屋武ひな。気さくに接してくれるけど、彼女が発するのは、ほぼウチナーグチ。「くるざーたーかむんな?(黒砂糖食べる?)」「あちゃーやー(明日ね)」など分からない言葉ばかり。

漫画の第1話。喜屋武さんのうちなーぐちに戸惑う主人公のてーるーを比嘉さんがフォローします(空えぐみさん提供)

 一方、やはり同じクラスの比嘉かなは、てーるーのことが気になっている。てーるーと話すきっかけがほしくて、喜屋武のウチナーグチを標準語に訳してあげる役目を買って出ている。

 作中では旧盆やビーチパーティー、台風など沖縄ならではの行事や生活の中で、3人の三角関係が楽しくかつほほ笑ましく描かれている。てーるーが仲間とさまざまな経験をする中で、県民も改めてウチナーグチや沖縄の文化、沖縄と県外との違いを学べるのだ。

 

 異世界?…違う、異文化だ。わったーじょーとーラブコメの旗手 空えぐみ

「沖ツラ」2巻まで好評発売中です!重版続々!

 というわけで、空えぐみさんの仕事場にお邪魔したワラビー。「先生は、ここで仕ごとをしているんですか…マンガを描くための紙は、どこですか?」

 「紙ではなくて、この液晶タブレットに描くんだよワラビー。『液タブ』とも言うよ」

 「えきたぶ…胃がもたれたり、はきけがしたりする?」

 「それはきっと『液キャベ』だよワラビ-」苦笑いする空えぐみさん。「こうして、ペンで液晶画面に直接マンガを描けるんだよ。筆圧によって線の太さも変えられるよ」

 「わあー、すごい!」瞳を輝かせる有袋類。「先生はひとりで仕ごとしてるの?」

 「そうだよ。アシスタントはいないんだ。ここで完成させて、東京の編集者にメールで原稿を送るよ」 つまりは完全リモートワーク。ちなみに1人でも原稿を仕上げられる環境を整えようといい機器をそろえたので、総額は中古の軽自動車くらいしたとか。

 「先生のマンガには、ウチナーグチや、沖なわのくらしがとてもこまかく出てきます!ワラビーは先生を、デージナウチナンチュ、とよんで尊けいしています!」

 「ありがとう、ワラビー。でも僕の出身は大阪なんだ」

 「大とかい・大さかですか!」

 

 空さんは大阪府出身。沖縄をマンガに描こうと思ったきっかけは5年ほど前だった。東京在住時、沖縄出身の漫画家仲間に地元の話を聞かされて魅了されたという。マンガの題材を探しに来県し、マンスリーマンションに1カ月住んでみて、「まだ足りないな」との印象を持った。もう1カ月延長したが、「それでも足りない」。結局3年前に長期契約のアパートを借りて、沖縄に移住してきた。

 「観光的な側面だけではなくて、沖縄の人の考え方や地域に根付く風習も知りたかった。やはり1年通して住まなきゃね」と空さん。また、父方の祖父は沖縄出身だとし、「自分のルーツに引きつけられたのかもしれない」とも振り返った。

 ワラビーが疑問をぶつける。「大とかい・大さかから来たのに、いまや沖なわはかせです!マンガに描くことは、どうやって取ざいするの?」

 「沖ツラ」を読んでいると、天ぷら屋の長男の名前が「上間」だったり、ヒロイン・比嘉さんの妹が朝にテレビを見ながら「待てない!」ポーズをしていたりと、県民にはたまらない小ネタも多い。

 「ほとんど僕自身が体験したことだよ。沖縄の人は海に入らないとか、道ばたにバナナが生えているとか。海に行くと近所のおばあが話しかけてきて『あんた昨日も来ていたね』と家に呼んでもらったり。沖縄のマンガを描きたいと説明したらシーミーや旧盆に呼んでもらったりとか。ウチカビもそこで燃やしたよ」

 ワラビーはさらに尋ねた。「あと、てーるーが好きなキャンさんも、てーるーを好きなヒガさんも、どちらもかわいいです!どうやって思いついたの?」

 

 そう、ウチナーグチをテーマにしたダブルヒロインという設定はどう生まれたのか。

 空さんによると、「ご当地マンガ=地方を題材にしたマンガ」は方言を前面に出すのがお約束。キャラクターが方言をしゃべることで面白さやかわいさが出るからだ。ただ、沖縄は違った。

 空さんは「ウチナーグチが想像以上に何言ってるか全然分からなかった」と笑う。この第一印象から、キャラクターたちは産声を上げた。

 「それならいっそ、何を言ってるか分からないヒロインにしよう。そしたら、内地(県外)の人や、県内でも若い人はウチナーグチが分からなかったりするので、通訳がいる、となった」。そこからはとんとん拍子。喜屋武さんが生まれ、比嘉さんが生まれ、三角関係の構図が生まれた。

 

 ウチナーンチュの気持ちや意識をもっとすくい取りたい、という。

 「なぜ沖縄県民が高校野球であそこまで盛り上がるかといえば、戦後の復興の象徴としてとらえていたりするから。小麦粉が原料の沖縄そばを『そば』と認めさせた歴史など、県民の気持ちがこもっている。ギャグ的にも描くけど、そういう県民の思いを内地に伝えたい」

 「じゃあ、じゃあ、まだまだマンガはつづく?」

 「もちろんだよワラビー。作中ではまだ夏休みなので、1年を通して描きたい行事はたくさんあるし、沖縄の結婚式や、離島も描きたい。沖縄ネタと三角関係、2つの軸で楽しんでほしいと思うよ

 「空先生はでーじすてきです!」

 「ふふふ、ありがとうワラビー」はにかむ空さん。

 「…じゃあ花火しよう?」 何でだよ。

 「いや僕の家にあった花火!まだ昼間なのに加えて、外は雨だよ。つぎの機会にしよう?」

 「わかりました!…じゃあそのかわりに、タイムスの子ども新聞『ワラビー』読しゃのために、サインを描いて?」 「じゃあ」って何だ。

 「サインね。もちろん!」

 なんだかんだ、寛容すぎる沖縄マンガの描き手は、こころよく色紙を描いてくれた。

 そして、完成したのが喜屋武さん&比嘉さんのダブルヒロインが描かれたこちらの色紙。部屋に飾れる子どもがうらやましい。

 「先生ありがとう!、こんどはお礼に、ワラビーのサインをプレゼントします!」空さんに色紙を手渡すワラビー。

 「あ、ああ、ありがとう」

 「自しん作です!」過信だろ。

 「あー…なるほど……ニヒルな感じだね」頑張って感想を絞り出した空えぐみ。

 だが、ノッてきた有袋類は止まらない。

 「空先生の、にがお絵もかきました!これももらって?」

 「どれどれ…いや『エグミー』て!『ワラビー』に寄せたな!」思わずツッコミがほとばしる空えぐみ。 「でも特徴はとらえているかも。これはこれで味があるね!ありがとうワラビー」

 「エヘヘ…」はにかむ有袋類。

 

 そうして仕事場訪問も終わり―。

 「先生、ありがとう!大とかい・大さか出しんでも、こんなに沖なわを好きになってくれた人はきっと、デージナウチナーンチュです!」

 「こちらこそありがとう、ワラビー」漫画家と有袋類はがっちり握手を交わした。

 「つづきを楽しみにしています!がんばって!」

 「うん、じゃあね…」

 そこで、空さんは重要なことに気づいた。

 「ていうかワラビー、ずっと土足だったんじゃあ…」

 まさか。

 そんな。 

 ―土足でした。

 「…ハッ!しまった!ごめんなさい!」

 「いやまあ、いいけどね。いい経験ができたし」苦笑いする空さん。

 

 だってこのブログで誰かのおうちを訪問するのは初めてだったんだもん。そんな言い訳をしてみるワラビーと、ワラビーブログスタッフだった―。

 

 そしてワラビーが帰った後、液晶画面に向かった漫画家は―。

 「デージナウチナーンチュ、か…」そうつぶやくと、仮面の中でわずかに口元をゆるませた。 「…さあ、頑張ろう」

 

 ~ワラビーからお知らせ~

 空えぐみさんのマンガ「沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる」はWEB漫画サイト「くらげバンチ」で連載中!

 コミックスは既刊2巻でいずれも続々と重版中です!

 さらにさらに!最新刊の情報もキャッチしました!

 「絶対終わらない沖縄しりとり」や「ハブとマングースの悲しき物語」などを収録し、沖縄のあるあるネタ満載の『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』の第3巻は、8月6日(金)発売予定です!

 みんなも県内書店などで探して読んでみてね!空さん、また一緒に何かできる機会を楽しみにしています!


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