無双の心技体を畳の上に見たんだワラビー
空手・喜友名諒選手にタイムス国際栄誉賞贈呈 編
8月6日、東京五輪の男子空手形が日本武道館で行われ、喜友名諒選手(劉衛流龍鳳会)が沖縄県出身選手で初の金メダルを獲得する快挙を達成した。決勝戦では「オーハン大」の演武で28・72点を獲得し、ダミアン・キンテロ(スペイン、27・66点)に1ポイント以上の差をつけての優勝。準決勝に出た6選手の中で28点以上を獲得したのは喜友名選手だけ。まさに「別次元」の強さを見せた―。

喜友名選手の五輪金メダルを伝える沖縄タイムスの特別紙面(8月7日)
勝利が決まった後も畳の中央で正座し、深々と一礼した姿や、対戦相手と健闘をたたえ合った様子も礼節を尽くしているとして好感や賞賛を集めた。

金メダルと母紀江さんの遺影を掲げる喜友名諒選手
この偉業を受け、沖縄タイムスも決勝翌日の7日、プロ・アマを問わず国際レベルの大会やコンクールなどで活躍し、高い評価を受けた個人や団体をたたえる「沖縄タイムス国際栄誉賞」を喜友名選手に贈ることを発表した。
―それから数週間がすぎた8月25日。
那覇市久茂地のタイムスビル10階では、読者局の社員らが、そわそわしていた。
(そわそわ・・・)(そわそわそわ・・・)
さらに、そんなオフィスの片隅では、沖縄タイムスのマスコットキャラクターで広報担当のワラビーが、金色の折り紙と紅白のリボンを前に頭をひねっていた。
「金だけがもっている、つよさを、あらわします!」
「首尾はどうだいワラビー。喜友名選手に贈るメダル制作は順調かい?」
そこにやってきたのは、かつてワラビー担当社員「いきものがかり」(初代)を務めていた村井規儀(むらい・のりよし)。現在は読者局文化事業部に所属し、沖展や芸能などタイムスの各種事業を担当している。
「あっ、村井せんぱい!」
「おっと・・・手指を消毒・・・と」 細かいな。
「金色を使って、ごうかさや、ぜいたくさを出したメダルをつくります!」
「なるほど、ラグジュアリー感だね。いいぞワラビー、おのれの中のラグジュアリーを爆発させるんだ!」
「・・・わかりました!」
「そうだ、合い言葉は『輝け!お前のラグジュアリー!』」 何言ってんだ。
「そんなことより、かたいダンボールを切るのを、手つだって!」
「はいはい・・・」
―みなさんはすでに、読者局社員がそわそわしている理由をお察しだろう。
そう、この日、タイムス国際栄誉賞の贈呈式出席のため、喜友名諒選手がタイムスビルを訪れることになっていたのである。オリンピック後の初の「晴れ舞台」のため、テレビなど県内メディア各社もタイムスビル1階ロビーに集まりつつあった。
ただ、8月25日当時の沖縄は新型コロナウイルス流行による緊急事態宣言が発令中。本来なら手が空いている社員総出で金メダリストを盛大に迎えたいところだが、そこは「密」を避ける必要がある。
せめてものにぎやかしのため、ワラビーに「社員を代表して喜友名選手を出迎え、祝福する」というミッションの白羽の矢が立ったのである。
そうして、いよいよ喜友名選手のお出迎えへ―。
「きゆな選手にふさわしい、いいメダルが、できました!」 テンションが上がったのか、消毒用アルコールをシュッシュする有袋類。
「何してるんだよワラビー」村井が続いた。
「つゆはらいです!メダルがすすむ方を、消どくします!」
「露払いが露振りまいてるし!」思わずツッコむ村井。
そして不安げな顔でエレベーターに向かった。「・・・けど、だいじょうぶかな、こんなメダルをもらってくれるのか、ドキドキするよ」
「すてきなメダルができたのに?」
「むしろ冒険かもしれない。僕的には『43歳、真夏の大冒険』だ」 二度と言うな。
―そんなこんなで、報道陣でにぎわう一階ロビーに降りてきたワラビーと村井。「きょうも平ねつのワラビーだよ!」
「―あれ、村井せんぱい、どうしてサングラスしているの?」
「いや、喜友名選手のオーラがまぶしくて、目がかすむと困るからね・・・」 本気か。
「とって!金メダリストに失れいです!」
「わかったよ。取るから消毒用アルコールかけるのやめろよワラビー」
その時、来賓が立体駐車場に到着したとの報が入り、一堂がざわわとする。
ややあって、喜友名諒選手と師匠の佐久本嗣男氏がスーツ姿でロビーに登場した。居合わせた人々から一斉に拍手や「おめでとう」の声が送られる。
そしてタイムス社員を代表して2人をたたえ、花束を渡すワラビー。
「きゆな選手、オリンピックかん動しました!金メダル、おめでだよ!りゅうえい流が沖なわと、世界をわかせました!」
喜友名選手は、きちんと一礼したのち、
「ありがとう、ワラビー」と花束を受け取った。久茂地の有袋類にも礼節をもって接してくれるオリンピアン。
さらに佐久本氏にも花束を渡し、2人と1匹で記念撮影。光栄至極だ。
「2人とならぶとワラビーも、りゅうえい流の下流にいるかんじです!」 亜流だろ。
そうして、有袋類が動いた。「きゆな選手、ワラビーが作ったメダルをプレゼントさせて?」
村井も覚悟を決めた。(やるんだね?ワラビー)
~1時間前、読者局文化事業部にて~
「村井せんぱい、できました!アーナンメダルです!」
「どれどれ・・・何このメダル。漢字で『安』って書いてある」
「オリンピックを取材した、うん動部記者のあかねせんぱいに聞いたら、りゅうえい流を代ひょうする形は『アーナン(安南)』だそうです!」
「喜友名選手が五輪予選で演武して、準決勝にこまを進めた得意の形だね。その頭文字の『安』ってこと?」
「そういうことです!・・・そして、もう一つつくりました!」
「これも『安』?そして、すこし大きめだけど」
「ハイ!アーナンメダルより一回り大きい、アーナン(大)メダルです!」
「アーナン大(安南大)て!準決勝で演じられた形!ていうか大きさの違いじゃないだろきっと」 戸惑う村井。
「しかもタテにならべると、焼き肉屋さんのようにもなります!」
「ホントだ!『安安』!」 怒られればいいのに。
「さらにひっくり返すと、オーハンメダルにもなるよ!」
「『オーハン』と『オーハン(大)』かよ!」 あきれる村井。
そしてなんだかんだ、ノッてきた有袋類は二の矢、三の矢を放つ。
「つづいて、ワラビーメダルです!耳のぶんだけ金が多くて、おトクです!」
「その発想、過去に那覇商業高校でプレゼンしたワラビードーナツだろ!」
「世の中には金メダルをかじりたい人も多いので、そのときは耳の部分をかじらせるといいです!」
「なるほど、こんなふうにね。耳はかじられて無くなっても『本体』はぶじなのか」
「ハイ!」 「2112年ドラえもん誕生」かよ。
「さいごに『かじる用』のメダルも作りました!」
「『かじる用』ってなんだよ?」 ワラビーからメダルを受け取る村井。
「・・・いや塩せんべい―!」 そしてツッコむ村井。
「おなかもふくれて、きゆな選手もよろこぶこと、うけあいです!」
「そううまくいくかな・・・」
手作りメダルをじゃらじゃらぶら下げる有袋類。「見て村井せんぱい!メダルラッシュだよ!」
「『メダルラッシュ』言っても自作―!・・・だいじょうぶかこれ?」
みなさんも村井の「大冒険」発言が腑に落ちたであろうか。さて、喜友名選手は、受け取ってくれるのか―。カメラは再びタイムスビルロビーへ戻る。
村井(・・・ぜんぶ)
村井(もらってくれた-!!)
喜友名「ワラビー、たくさんメダルをありがとう!」
ワラ「ハイ!これからも空手で県民にゆめと、ゆうきを与えてください!」
そうして喜友名選手は国際栄誉賞を受賞するため役員室へ向かったのである。
その後、沖縄タイムス国際栄誉賞を受賞した喜友名選手は「このような賞を頂けてうれしい。五輪を通し、沖縄の空手や伝統を世界に発信できたと思う」と喜んだ。
沖縄タイムスの武富和彦社長も「県民の一人として胸が熱くなり、希望をもらった」とたたえた。

金メダルを伝える特別紙面に見入る喜友名選手
実はこの時、金メダルを車に忘れてきていた喜友名選手。役員室にはワラビーが贈った数々のメダルを掛けて現れたという。
並外れた「形」の演武で魅せるのに、「形にはまらない」魅力も示す大物。そんなことを思ったワラビーと、ワラビーブログスタッフだったー。
喜友名選手、ありがとうございました!今後のご活躍も期待しています!
~おまけ~
「大役」を終えて塩せんべいで互いをねぎらうワラビーと村井。
村井「喜友名選手も喜んでくれてたし・・・ふところが深いよね」
ワラ「なんで?」
村井「『なんで?』って言う?」