「三代目」ってむやみにアツいよねワラビー
三代目「いきものがかり」誕生 編
2021年9月のある日、沖縄タイムス社・営業局―。タイムス紙面に掲載される広告の営業や企画制作、タイムスやクライアントによる各種事業やイベントの企画や運営に携わる部署だ。
昼下がり、鳴り響く電話。若い女性社員が素早く受けた。
「お電話ありがとうございます!沖縄タイムス社営業局企画事業部、金城です。はい、金城です。お世話になっております…ええ、ええ、ええ…」心なしか、声のトーンが下がっていく。
「…そうですか。中止決定ですか。このご時世ですもんね。ええ、嘉数と宮里には伝えます。一応、改めてあいさつにうかがい…遠慮したほうがいいですね。このご時世ですもんね」
「分かりました。ご連絡ありがとうございました。失礼いたします」
女性社員が電話を切ると、向かいに座っていた営業部の國吉匠が声を掛けてきた。「やっぱり中止?来春の自治体マラソンイベント」
「そうです。役場の担当の方が、開催される時期のコロナの影響が見通せないからって。わたし、ことし入社して『このご時世』ばかり言ってる気がする」
「去年と今年の新入社員は集客数で達成感が得られるようなイベントらしいイベントが、1度もできてないもんな。実夢(みゆ)たちコロナせだ…」
「もう、『コロナ世代』とか言わないでくださいよ」
「あ、ごめん。でも俺も振り回されまくり。早く収束して、通常運転に戻りたいよ」
「何度したでしょうね、こんな会話」
「だからよ」 2人は苦笑いして、再びパソコンに向かった。
一方、沖縄タイムス社の広報担当特命社員、「久茂地の有袋類(ゆうたいるい)」ことワラビーはその頃、タイムスビルの前に1匹たたずみ、物思いにふけっていた。
「ことねせんぱいが『いきものがかり』をやめたので、ワラビーは、ひとりぼっちの秋です!心とおなかにふく、すきま風…」 なんでついでに空腹アピールもしたんだ。
―そう、時は今年、2021年の7月までさかのぼる。
3年3カ月におよぶ長い眠りから覚めて、タイムスの広報活動を再開したワラビー。
~回想・7月~
「ワラビーは決めたよ!ワラビーはこれから、コロナにまけずにがんばっている人を応えんします!大きくても、ささやかでも、さまざまな人をです!」
「うん、いいことだと思う!」 沖縄タイムスのワラビー担当社員「いきものがかり」の榮門琴音(えいもん・ことね)も声を弾ませた。
「沖なわタイムスの広ほう担当と、ウチナーンチュの応えん団、ワラビーは、二足のわらじをはきます!」久茂地の中心で盛り上がる有袋類。
「じゃあ私は、これからは、ワラビーの応援団をしようかな。だってもう一緒に……」
「ことねせんぱい?」
「何でもないよ、ワラビーがんばれー!」
「ハイ!」
「……とごまかそうと思ったけど、やっぱ今、言うね。私、『いきものがかり』を続けることが難しくなっちゃった。もう一緒にいろんなとこに行けないよ」
「ええー!ことねせんぱい、おばあちゃんになるまで、やらないの?」驚く有袋類。
「そしたら介護担当の『いきものがかりがかり』が必要になってしまうかも。ワラビーは『永遠の子ども』だから年を取らなくていいけどさ」
「おばあちゃん手まえまで、やればいいです!」
「いや手前って何? とにかく、ワラビーが3年以上眠っている間、私は編集局学芸部から整理部に異動したの。新聞記事の見出しを付けたり、記事と写真の位置を決めたりするお仕事だよ。記者が取材して帰ってくる夜から忙しくなるの。つまり、夜勤なんだ。ワラビーがタイムスビルで寝ている間に働いているんだよ」
「夜はたらいて、お昼もワラビーとはたらけばいいです!」
「のんきな顔でブラック企業か!」榮門がツッコんだ。「それじゃあ私の気力と体力がもたなくなっちゃう。ごめんねワラビー。でも、ワラビーと一緒にいた時間はとてもワクワクしたよ。ワラビーに会った人は子どもも大人も、たいてい笑顔になっていたよ。それってすごい存在なんだよ」
「ワラビーは、そんなことを言われて、どういう顔をしたらいいか、分かりません…」
「笑顔でいいじゃない。うつ向いている人がもういちど前を向けるような笑顔、タイムスを読んでくれている人もタイムスの社員も、思わずつられて笑っちゃうような笑顔で、いつもいてほしいな」
「…ことねせんぱい、わかりました!とてもさびしいけど、これまで、いきものがかり、ありがとう…ありがとうございました」
「分かってくれてうれしい。成長したねワラビー…『はなむけのちゅ~る』をあげる」 「はなむけのちゅ~る」って何だ。
「ことねせんぱい、ワラビーはネコじゃないよ!」
「ああ、ごめんごめん!とにかく頑張ってねワラビー」
「ハイ!」
~回想終わり~
2014年7月に当時社長だった豊平良孝会長から、広報担当特命社員として辞令を交付されたワラビー。その豊平会長による「ワラビーだけでは心もとない」という発案から、ワラビーの教育係、補佐役として設置された役職が「いきものがかり」だ。
初代を村井規儀(むらい・のりよし、現読者局文化事業部)、
2代目を榮門琴音(現編集局整理部)が務めてきた。
ワラビー「村井せんぱいとはじめてあった時は、カップラーメンをもって出てきました!ウフフウフフ…」
「…さて、もどって、今日やることを考える仕ごとをします!」 それは仕事ではない。
ー同じころ、タイムスビル2階通路ベンチには思い悩んだような女性の姿があった。
(はあ…)
よく見ると、先ほど営業局で電話を取っていた女性社員が、手元に繰り返しため息を落としている。
「ハッ!あからさまに落ちこんでいる人がいます!きっと50円か、100円を落としたにちがいない…なぐさめます!」 家政婦は見た的に女性の存在に気付いたワラビー。
女性社員に近づいて、そばに腰掛けた。
「こんにちは、ワラビーだよ!100円はもったいなかったね…」
「100円?…ていうかワラビー!?…ワラビー先輩ですね!入社して初めて会えたー!」 驚く女性社員。
「ワラビーはずっと、ねむっていました!こどもなので、せんぱいじゃないよ!」
「でも社歴はだいぶ上ですよね。久茂地を普通に歩いてるって聞いてたのに、ぜんぜん見ないから、最近は空想上の生きものみたく思ってました!」
「ペガサスかユニコーンか、ワラビーです!」 シュッとした存在に並ぼうとする有袋類。「おねえさんは、タイムスの社いんなんですね!」
「あ、営業局企画事業部の金城実夢です。実る夢で、みゆ。2021年の新入社員です」
「みゆさん!…新入社いんですか!入社おめでだよ!」
「ハイ!ありがとうございます!」
すきあらば動物に寄ってこられる新入社員 営業局企画事業部 金城実夢(みゆ)
「新入社いんにとって100円は貴ちょうです!でも、切りかえは大じ!ワラビーはお金と、びょう気と、人間かんけい以外は相だんにのれるよ!」 相談先に向かない有袋類。
「100円はよく分からないけど。じゃあ…入社して、担当させてもらったイベントがコロナで軒並み中止になっていくんです。先輩を含めて期限ぎりぎりまで何とか開催できないか知恵を絞るのに、中止になるのはやり切れないし、やっぱり徒労感もあるし」
「みゆさんは、イベントがやりたいの?」
「大学では観光を専攻したので、観光の分野で沖縄に貢献できればと思って。タイムスでもいつかイベントを通して県内外から集客して、地域を盛り上げられたらいいな」
「すてきな目ひょうです!」 地域の前に盛り上がるワラビー。
「でも入社以来、コロナで思うように動けてないので。オンラインイベントも充実してきているけど、やっぱりリアルな熱気や笑顔を感じたいです。タイムス社員として、クライアントのために私ならではの『役割』を果たしたいけど、その『役割』が何かも正直、見えてなくて。…あ、すいません先輩!聞いてもらってありがとうございます!」
「こどもなので、せんぱいじゃないよ!みゆさんならではの『役わり』ですか…役わり…役わり…ハッ!これです!」 何かを思いついた有袋類。
「…?」
「みゆさん、ワラビーが、役わりを準びします!しばらくまっててね!」
「はい、ありがとうございます…?」 けげんな顔をする金城だった。
―ワラビーはその足で総務局に行き、上司で企画経理部副部長待遇の小林剛を訪ねた。そして拝むように頼み込んだ。
「…小林せんぱい、とにかく根回しして!」
「いや言い方ってあるだろ!どうしたワラビー」
「かくかくしかじかで、根回しが必ようです!」
「……分かった。やってやる」
「ホント?」顔をほころばせたワラビー。「怒らない?なんぎじゃない?」
「仕事は何でも『無理』とか『前例にない』とか、否定から入りたくない。まずは話を聞いて、そこからの是々非々を心掛けたいからな」 そうして小林はスマホを取り出し、「各方面」に電話をかけ始めた。
「小林せんぱいの根回しは、ほれぼれします!」
「言い方!」 小林の鋭い声が飛んだ。
そんな小林の根回しが結実したのが約2カ月後、21年12月某日―。
まもなく午前11時になろうとする頃、タイムスビル最上階、沖縄タイムス社役員フロアの「奥の院」、社長室のドアノブがガチャリと回った。
そして、出てきた人物は―。
「………」
「………」
「1月1日から新輪転機稼働で全ページカラー!文字はくっきり情報たっぷり!」
…を抜かりなくアピールする 沖縄タイムス社代表取締役社長 武富和彦
役員応接室では、ワラビーと小林が武富社長を待っていた。
「武とみ社長、きょうはありがとう!」お辞儀をするワラビー。
「おおワラビー。ずっとサボって倉庫で眠りこけていたらしいじゃないか。頼むから子どもたちを失望させるようなまねだけはしてくれるなよ」
「ねる子は、そだちます!」
「調子がいいなまったく…」 武富社長は苦笑いして、ワラビーとグータッチした。7年前の編集局長時代、各部局を横断して「ワラビーまつり」運営などを担った「ワラビー活用委員会」の委員長を務めていた経歴がある。この活用委の提案からワラビーは「広報担当特命社員」に任命されたのだ。
武富社長が問う。「それで『主役』はまだなのか」
小林「ワラビー、どうなんだ」
ワラ「いま、秘しょの人に、電わしてもらっています…」
「…え、役員室!?……社長!?―分かりました、すぐ向かいます!」
「…すいません、これからラーメン食べるところだったので!」
無駄に写真5枚を使って登場した 営業局企画事業部 金城実夢
「みゆさん、食いしんぼう!村井せんぱいみたいです!」喜ぶワラビー。
「ちゃんとオキコさんはクライアントなんだよな?」細かい点に気を遣う武富社長。
「あ、ハイ!担当してます!…軽いパニックでつい」照れ笑いする金城。
―その中で、小林だけが胸の内で静かに戦慄(せんりつ)していた。
(なんかこの子、なんかこの子……めっちゃ「素質」あるんじゃね?)
「失礼します」 役員秘書の慶佐次さくらがお盆を両手に入室してきた。
「えっ、何」 金城が目を見開いた。
「じゃあ始めるか。辞令交付式」 武富社長が言った。
「辞令交付式!?…この年末に、わたし異動ですか?」 戸惑う金城。
「まあ…では金城さん」武富社長が辞令を読み上げた。「営業局企画事業部 金城実夢どの ワラビー担当 いきものがかり兼務とする」
ワラ「やった!」
辞令は沖縄タイムス社のトップの手から新入社員の手へ、おごそかに交付された。この瞬間、「3代目いきものがかり」が誕生した。
小林と、遠巻きに見守っていた編集局長の与那嶺一枝からも拍手が送られた。
「…いきものがかり?いきもの…がかり。あー、ワラビーだから『いきものがかり』なんです…よね?」 懸命に現状を把握しようとする金城。
武富社長は「ワラビーはタイムスにとって大事なキャラクターで、子どもたちのアイドルでもある。コンビを組んで、タイムスのブランド力の発信に努めてほしい」と激励。「ワラビーの教育係でありサポート役の『いきものがかり』を新入社員が担うのは初めてだ。役職や肩書が人を育てることも往々にしてあるし、新人とワラビーの『科学反応』も面白そうだからね。それにワラビーからも『ぜひ』との推薦だ」
「ワラビー先輩!…そうなんですか?」
「ワラビーはみゆさんの『役わり』を準びしたよ!みゆさんならではの『役わり』と『いきものがかり』が、ぴったり合えばうれしいし、ぴったりじゃなかったらやめてもいいよ!この前みたいに、うつむいている時かんが少なくなって、もう一ど、まえを向けたらいいと思います!」
「え、そっか…あの時の相談からなんですね。ありがとうワラビー先輩!」
「それに、まわりによく気がつくみゆさんも見かけました!」
※落ちていたごみをくずかごに入れる金城
※乱れていたいすの位置をきれいに整える金城
※家政婦が見すぎているワラビー
金城が、はきはきとした声で語った。「若輩者ですが、わたしならではの『いきものがかり』を務めてみたいです!社が新しい輪転機を入れたタイミングでもあります。タイムスの知名度と人気をアップするために、3代目として頑張りたいです!」
「みゆさん、ありがとう!」 がっちり握手を交わす新コンビ。
「一緒に頑張りましょう!ワラビー先輩!」 金城も応えた。
「こどもなので、せんぱいじゃないよ!」
―そんなこんなで誕生した3代目いきものがかり。コロナ終息を見据えながら、ワラビーとともに、さまざまな企業やイベントを盛り上げようと気合が入っています。ワラビーブログは2022年も随時更新します!改めて、1匹と1人の奮闘にご期待ください!
「2022年、沖縄タイムスの新紙面にも、ご期待ください!」
~おまけ~
「…ところでワラビーお前、なんかやけに毛が抜けていないか」 武富社長がスーツを手で払う。
「ホントだ。私のスーツにも毛が付いてます」 金城も続いた。
「何でだろう…きっと季せつの、かわり目です!」 冬毛かよ。
※ワラビーブログスタッフによるおことわり
今回の記事の写真撮影は消毒や換気など感染防止策を講じた上で、出演社員らは撮影時のみマスクを外して行われました。